


【第8回・最終回】定年制度の未来を展望する:これからの方向性と課題 <連載> 定年制度(全8回)

【第7回】ジョブ型雇用時代の定年制:新しい働き方への対応 <連載> 定年制度(全8回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
連載第2回目となる今回は、「辞職」と「合意退職」の法的性質の違いについて深掘りしていきます。
労働者が職場を去る際、一般的には「退職」という言葉が一括りに使用されますが、法的にはこの二つは全く異なる構成要件と効果を持つ概念なのです。
この区別は、退職の効力発生時期、撤回の可否、損害賠償請求の可否など、実務上の重大な帰結を左右します。
「辞職」とは、労働者からの一方的な意思表示による労働契約の解約(解約告知)です。
法的には、労働者が有する「形成権」の行使と解されます。形成権とは、権利者の単独の意思表示のみによって法律関係の変動を生じさせる権利であり、相手方である使用者の承諾を要さない点が最大の特徴です。
無期雇用契約における辞職については、民法第627条第1項が「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」と規定しています。
この規定は、憲法上の「職業選択の自由」(憲法22条1項)および「奴隷的拘束の禁止」(憲法18条、労働基準法5条)を私法上で具現化したものであり、労働者は原則として理由を問わず、2週間の予告期間を置くことで自由に辞職することができます。
実務上、就業規則において「退職は1か月前までに申し出ること」といった規定が設けられている場合が多いですが、通説および裁判例の多くは、民法627条を労働者に有利な強行法規と解しており、就業規則の規定よりも民法の規定が優先されると考えられています。
したがって、労働者が民法を盾に「2週間後の退職」を強硬に主張した場合、使用者がこれを法的に阻止することは極めて困難です。
有期雇用契約においては、契約期間の遵守が原則となるため、民法628条により「やむを得ない事由」がある場合に限り、直ちに契約を解除できるとされています。
しかしながら、労働基準法附則第137条により、契約期間が1年を超える長期の有期契約の場合は、1年経過後は民法627条と同様に、労働者は理由を問わず退職することが可能です。
これは長期の有期契約が実質的な身体拘束とならないよう配慮された規定です。
一方、「合意退職(合意解約)」とは、労働者と使用者が合意によって労働契約を将来に向けて解約することです。これは新たな契約(解約契約)の締結であり、契約自由の原則に基づいて、双方が合意すれば民法627条の予告期間にかかわらず、即時に、あるいは特定の日付をもって契約を終了させることができます。
合意退職の成立プロセスは、通常の契約締結と同様に「申込み」と「承諾」によって構成されます。通常は労働者から使用者に対し、「〇月〇日付で退職させていただけますでしょうか」という打診(退職願の提出)が行われ、使用者がこれに対し承諾の意思表示を行うことで、解約の合意が成立し、労働契約終了の効果が確定します。
両者の違いを整理しましょう。
法的性質については、辞職は一方的な解約告知(形成権)であるのに対し、合意退職は契約の合意解除(契約)です。
使用者の承諾については、辞職は不要で一方的に効力が発生しますが、合意退職は必要であり承諾により効力が発生します。
撤回の可否が非常に重要なポイントです。辞職は原則として到達後は撤回できません。一方、合意退職は承諾が到達するまでは撤回可能です。
終了時期については、辞職は申入れから2週間経過後が原則ですが、合意退職は合意した日(即日も可)となります。
書類の名称としては、辞職の場合は「退職届」、合意退職の場合は「退職願」が一般的に使われます。
実務上、労働者が提出する書面の表題が「退職願」であっても実質が「辞職」である場合や、逆に「退職届」であっても「合意退職の申込み」と解される場合があり、その認定が多くの法的紛争の火種となっています。
次回は、この「辞職」と「合意退職」の区別について、実際の判例ではどのように判断されているのかを見ていきます。
大通事件という重要判例を取り上げますので、ぜひお楽しみに!