


第1回:法律は変わらないのに「最大の転換点」—2026年10月改正の全体像 <連載>労務管理と健康管理の実務 — 2026年から2028年の法改正を読み解く(全8回)

第6回(最終回)休職・復職規定と証跡管理 —「解雇の猶予」から「復帰への助走」へ <連載>労務管理と健康管理の実務 — 2026年から2028年の法改正を読み解く(全6回)

賞与、退職手当、家族手当、住宅手当など、争いの多かった待遇に判断基準が示されました。判例とセットで読み解きます。
こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
第3回と第4回では、同一労働同一賃金ガイドラインの改定を取り上げます。2018年に告示された旧ガイドライン(平成30年厚生労働省告示第430号)は、基本的な考え方を示す一方で、実務上最も争いになりやすい賞与、退職手当、住宅手当、家族手当といった給付については、明確な判断基準を欠いていました。現場の人事担当者からすれば、「肝心なところが書いていない」ガイドラインだったわけです。
その空白を埋めてきたのが最高裁判所です。2018年6月1日のハマキョウレックス事件と長澤運輸事件、2020年10月13日の大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件、2020年10月15日の日本郵便3事件、そして2023年7月20日の名古屋自動車学校事件と、重要な判決が続きました。改正ガイドライン(令和8年厚生労働省告示第203号)は、こうした司法判断の積み重ねを条文の形に整理し、行政の指針として正式に取り込んだものです。
これらの判決に一貫して流れている考え方があります。賃金の総額を単純に比べるのではなく、個々の待遇ごとに、その性質と支給目的に照らして、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して不合理かどうかを判断するという「個別判断」の原則です。「総額では正社員の8割を払っているから大丈夫」という発想は、この原則の下では通用しません。
それでは、改正ガイドラインが主な待遇についてどのような基準を示したのかを見ていきましょう。まず賃金・手当に関する5項目を表にまとめました。
| 対象待遇 | 改定区分 | 性質・目的と判断要件 | 基礎となる最高裁判例 |
|---|---|---|---|
| 賞与 | 記載の充実(注の追記) | 業績貢献の配分に加え「労務の対価の後払い、功労報償等」の性質を含む場合、職務内容等の相違に応じた均衡ある支給が必要 | 長澤運輸事件、大阪医科薬科大学事件、名古屋自動車学校事件 |
| 退職手当 | 独立項目として新設 | 「労務の対価の後払い、功労報償等」の性質が妥当する場合、相応に継続勤務が見込まれる者への均衡ある支給(又は基本給上乗せ等の見合い措置)が必要 | メトロコマース事件 |
| 無事故手当 | 新規追加 | 業務の内容が正社員と同一であれば同一の支給 | ハマキョウレックス事件 |
| 家族手当(扶養手当) | 新規追加 | 契約更新を重ねる等、相応に継続的な勤務が見込まれる者には同一の支給 | 日本郵便(大阪)事件 |
| 住宅手当 | 新規追加 | 転居を伴う配置変更の有無に応じて支給するもの。同一の配置変更がある者には同一の支給 | ハマキョウレックス事件、日本郵便(東京)事件控訴審 |
賞与と退職手当では、「労務の対価の後払い、功労報償等」という性質がキーワードになっています。賞与を一律に不支給としてきた企業は、自社の賞与にこうした性質が含まれていないかを確認する必要があります。退職手当は今回、独立した項目として新設されました。メトロコマース事件で示された後払い・功労報償という性質の考え方が反映されており、支給しない場合でも、基本給への上乗せといった見合いの措置があるかどうかが問われます。
無事故手当は分かりやすい例です。安全運転と事故防止を奨励する手当である以上、運転業務そのものが同じなら、雇用形態で差をつける理由はありません。家族手当では「相応に継続的な勤務が見込まれる」かどうかが分かれ目です。契約更新を重ねて長く働いている人の生活費を補助する必要性は、正社員と変わらないと考えられるからです。
住宅手当は、転居を伴う配置変更の有無に応じて支給するものかどうかがポイントです。転勤のある正社員だけに支給しているのであれば一定の説明がつきますが、転勤のない正社員にも支給しながら非正規雇用の労働者には支給しないという取扱いは、不合理と判断されます。就業規則に「転勤あり」と書いてあるだけでなく、配置転換が現実にどの程度行われているかという実態が厳しく見られる点にも注意が必要です。
今回のポイント
改正ガイドラインを読むときは、「その手当は何のために払っているのか」という性質・目的から考えることが出発点です。性質・目的が非正規雇用の労働者にも当てはまるのであれば、雇用区分だけを理由に差をつけることは難しくなります。
それでは、また次回お会いしましょう。
次回予告(第4回)
第4回では、病気休職、夏季冬季休暇、褒賞の基準に加え、改正ガイドラインが正面から否定した「4つの言い訳」を取り上げます。手続の不備が実体判断に跳ね返る仕組みにも注目です。



