


第2回:労働条件通知書に加わった「たった1行」の重み <連載>労務管理と健康管理の実務 — 2026年から2028年の法改正を読み解く(全8回)

第1回:法律は変わらないのに「最大の転換点」—2026年10月改正の全体像 <連載>労務管理と健康管理の実務 — 2026年から2028年の法改正を読み解く(全8回)

休職・休暇・褒賞の基準と、実務で使われてきた抗弁を否定する規範を確認します。手続と実体が結びついた点が重要です。
こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
前回に続き、同一労働同一賃金ガイドラインの改定を見ていきます。前回は賃金・手当を扱いましたが、改正ガイドラインは休職や休暇、褒賞についても判断基準を示しています。
| 対象待遇 | 改定区分 | 性質・目的と判断要件 | 基礎となる判例 |
|---|---|---|---|
| 病気休職・休暇 | 記載の充実 | 療養への専念と雇用継続の支援。相応に継続的な勤務が見込まれる者には、休職・休暇期間中の給与保障を同一に行う | 日本郵便(東京)事件最高裁判決 |
| 夏季冬季休暇 | 新規追加 | 季節の節目における心身の回復。繁忙期の極めて短期の雇用等を除き、同一の休暇を付与 | 日本郵便(佐賀)事件最高裁判決 |
| 褒賞 | 新規追加 | 永年勤続・功績の顕彰。通算勤続年数が同一の者には同一の褒賞を付与 | メトロコマース事件東京高裁判決 |
病気休職については、日本郵便(東京)事件で、正社員は有給、非正規は無給という制度設計の差そのものが不合理とされました。夏季冬季休暇は、日本郵便(佐賀)事件で休暇を与えなかったことによる損害賠償が認められた判断と整合する内容です。褒賞については、有期契約を更新してきた期間も通算して勤続年数を数えるという考え方が示されています。「契約は1年ごとだから勤続は1年」という数え方は通用しないということです。
今回の改定で、私が最も重要だと考えているのはここからです。改正ガイドラインは、待遇差を正当化するために実務で長く使われてきた理屈を、正面から否定する規範を設けました。私はこれを「4つの言い訳」の封じ込めと呼んでいます。
1つ目は「正社員人材確保論」です。「正社員としての職務を遂行し得る人材を確保し、定着させるため」という目的だけでは、直ちに待遇差が不合理でないとは認められないと明記されました。将来の幹部候補を確保したいという抽象的な理由だけでは、もはや説明として足りないということです。
2つ目は「定年後再雇用だから」という理屈です。定年後に継続雇用された者であることだけを理由に、直ちに不合理でないとは認められないとされました。再雇用の嘱託社員であることだけを根拠にした機械的な賃金の引下げにくぎを刺す内容です。名古屋自動車学校事件の判断とも重なります。
3つ目は「正社員の待遇を下げてそろえればよい」という発想です。待遇差を解消するときは、正社員の労働条件を不利益に変更することなく、非正規雇用の労働者の待遇改善を図るべきことが示されました。帳尻合わせのための正社員の待遇引下げは、改正の趣旨に反します。
4つ目は「説明しなくても待遇差の中身には関係ない」という思い込みです。事業主が十分な説明を行わなかったことや、非正規雇用の労働者の意向を考慮せずに一方的に待遇を決めたこと自体が、法第8条の「その他の事情」として、待遇差が不合理であることを基礎づける方向で考慮され得ると明文化されました。
4つ目の言い訳の封じ込めは、法的に見て非常に大きな意味を持っています。これまで、説明義務を果たしたかどうかという「手続」と、待遇差が不合理かどうかという「実体」は、別々の問題として扱われがちでした。今回の改定により、手続の不備が実体判断の違法性に直接跳ね返る構造ができあがったのです。
第2回で、労働条件通知書に説明を求められる窓口を明記することになったとお話ししました。ここでつながりが見えてきたのではないでしょうか。説明を求められる機会が増え、その説明が不十分であれば、それ自体が待遇差の不合理性を裏づける事情になる。施行規則とガイドラインは、このように連動しています。
今回のポイント
「正社員だから」「再雇用だから」「将来の役割期待が違うから」といった抽象的な理由だけでは、待遇差の説明になりません。客観的な事実に基づいて説明できるかどうか、そして実際に丁寧に説明したかどうかの両方が問われる時代になりました。
それでは、また次回お会いしましょう。
次回予告(第5回)
第5回は、雇用管理指針の改正です。「しなければならない」と「望ましい」では重みが全く違います。規範の強さを読み分け、限られた経営資源をどこに優先して投じるべきかを整理します。



