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【第4回】定額残業代の有効要件③「合意と周知」の重要性と実務対応 <連載>日本の定額残業代裁判例の要点

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!

これまで定額残業代の有効要件として「判別性」と「対価性」について解説してきました。

今回は3つ目の重要な要件「合意と周知」について詳しくお伝えします。この要件をしっかり押さえることで、労使間のトラブルを未然に防ぐことができますよ。

「合意と周知」の意味と重要性

定額残業代制度の導入・適用にあたっては、賃金の一部が時間外労働等の対価として支払われることについて、使用者と労働者との間で合意が形成されている必要があります。

ここで大切なのは、単に形式的な合意ではなく、労働者が制度の内容(定額残業代の金額、対象となる時間数、超過分の取扱い等)を十分に理解した上での実質的な合意であることが求められる点です。

なぜなら、労働者が自身の労働条件を正確に理解し、労働時間とそれに対応する賃金の関係を把握できる状態にあることが、公正な労使関係の前提だからです。

合意形成の方法と周知のポイント

1. 雇用契約書や就業規則での明文化

まず基本となるのは、雇用契約書や就業規則において制度内容を明確に規定し、労働者がいつでもそれを確認できるようにすることです。

具体的には以下の点を明記しましょう:

•定額残業代の名称と金額
•対象となる時間外労働等の時間数(時間外・休日・深夜の別も明記)
•定額を超えた場合の差額支払いに関する取扱い

 

2. 丁寧な説明と理解の確認

採用時や制度導入時には、口頭や書面で丁寧に説明し、労働者の理解を得ることが極めて重要です。

特に注意すべきなのは、入社時に月給総額のみを提示し、後からその一部が定額残業代であったと主張するようなケースです。このような場合、有効な合意があったとは認められにくくなります。

採用面接や入社時オリエンテーションなどの場で、定額残業代制度の仕組みについて丁寧に説明し、質問に答える機会を設けることが望ましいでしょう。

 

3. 給与明細書での明示

給与明細書においても、定額残業代の項目と金額を明記することが推奨されます。

これにより、毎月の給与支給時に労働者が自身の賃金構成を確認できるようになります。

例えば、「基本給:20万円、固定残業手当(20時間分):5万円」のように明示することで、どの部分が定額残業代であるかを労働者が容易に理解できるようにします。

合意と周知に関する裁判例のポイント
裁判例を見ると、合意と周知に関して以下のような点が重視されています:

ケース1:合意なしと判断されたケース
ある会社が「業務手当」を後から「固定残業代だった」と主張したケースでは、採用時に手当の趣旨について説明がなく、就業規則等にも明記されていなかったことから、労働者の合意はなかったと判断されました。

ケース2:令和5年最高裁判決の教訓
令和5年3月10日の最高裁判決では、給与体系の変更に関して従業員に十分な説明がなされなかったことが、定額残業代の有効性を否定する一因となりました。この判決は、制度導入時の丁寧な説明と合意形成の重要性を再確認するものです。

実務上の留意点

1. 同意書の取得も有効
可能であれば、定額残業代制度への同意を示す書面(同意書)を取得しておくことも有効な方法です。ただし、形式的な書面の取得だけでなく、内容についての十分な説明と理解が伴っていることが重要です。

2. 制度変更時の対応
既存の賃金体系から定額残業代制度へ移行する場合や、制度の内容を変更する場合は、特に慎重な対応が求められます。労働条件の不利益変更となる可能性もあるため、説明会の開催や個別面談など、丁寧な説明と合意形成のプロセスを設けることが望ましいでしょう。

3. 合意形成の証拠保存
説明資料や質疑応答の記録、同意書など、合意形成のプロセスに関する証拠を適切に保存しておくことも重要です。後日トラブルになった際に、合意の存在を客観的に示す資料となります。

まとめ

「合意と周知」は、形式的な要件ではなく、労働者が自身の労働条件を正確に理解し、納得した上で働くための実質的な要件です。

特に定額残業代のような複雑な賃金制度については、丁寧な説明と明確な合意形成が不可欠となります。

次回は、定額残業代の有効要件の4つ目「差額支払義務」について解説します。お楽しみに!

 

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