


【第3回】重要判例と法的枠組み:制度を形作った司法判断 <連載> 定年制度(全8回)

【第2回】男女差別の撤廃と職業別定年制の不思議な世界 <連載> 定年制度(全8回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
定年制度シリーズも第5回となりました。
今回は、定年制度が日本独特の雇用システムとどのように結びついているかを解説し、諸外国との比較を通じて日本の特異性を浮き彫りにしていきます。
グローバル化が進む中で、この日本型システムがどのような変化を遂げようとしているのか、興味深い話題満載です!
日本型雇用慣行は、「終身雇用」「年功序列」「企業別労働組合」という三つの特徴で知られています。
実は、定年制度はこの三つすべてと密接に関連しています。まさに日本型雇用システムの「三種の神器」を支える重要な基盤なのです。
まず終身雇用との関係を見てみましょう。
定年制度は「定年までは解雇されない」という雇用保障の裏返しとして機能してきました。
企業側は定年という明確な雇用終了時点があるからこそ、それまでの雇用を保障することができたのです。
一方、労働者側も定年までの雇用が保障されているからこそ、一つの企業に長期間勤続することを受け入れてきました。
この相互依存関係が、日本の労働市場の特徴的な安定性をもたらしてきたのです。
年功序列制度との関係も見逃せません。年功序列では、勤続年数や年齢に応じて賃金や地位が上昇していきます。しかし、これを無制限に続けると、高年齢者の人件費が膨大になってしまいます。
定年制度は、この「人件費の青天井化」を防ぐストッパーの役割を果たしてきました。
定年という出口があるからこそ、企業は安心して年功的な処遇制度を維持できたのです。逆に言えば、定年制度なしに年功序列を維持することは、企業にとって大きなリスクとなります。
企業別労働組合も、定年制度と深い関係があります。日本の労働組合は産業別ではなく企業別に組織されているため、その企業での雇用継続を前提とした活動を行います。
定年延長の要求も、多くの場合、企業別労働組合が主導してきました。
この構造は、労働組合の交渉力を企業内に限定する一方で、企業と従業員の利害を一致させやすくするという特徴を持っています。
では、なぜ日本だけがこのような定年制度を発達させたのでしょうか?
諸外国の状況と比較してみましょう。
アメリカでは、1967年に制定された「雇用年齢差別禁止法(ADEA)」により、40歳以上の労働者に対する年齢を理由とする差別が禁止されています。
企業が一律に定年を設けることは、基本的に違法とされているのです。
ただし、警察官や消防士など、高度な身体能力を要求される職業については例外が認められています。また、経営幹部については65歳での強制退職が可能とされるなど、完全に定年制度が排除されているわけではありません。
ヨーロッパ各国の状況はより複雑です。ドイツやフランスでは、労働協約によって定年年齢が定められることが一般的ですが、これは法的な強制力を持つものではありません。年金受給開始年齢との調整が重要な要素となっています。
イギリスでは、2006年に年齢差別禁止法が制定され、2011年には企業による強制定年制度が原則廃止されました。現在では、客観的に正当化できる場合を除いて、年齢を理由とする退職強制は違法とされています。
興味深いことに、韓国や台湾などの東アジア諸国では、日本と類似した定年制度が存在しています。
これは、これらの国が日本の雇用システムを参考にした部分があることを示しています。
ただし、近年はこれらの国でも定年制度の見直しが進んでおり、韓国では段階的な定年延長が実施されています。
国際比較を通じて見えてくる日本の特異性は、定年制度が単独で存在するのではなく、終身雇用・年功序列という他の制度と一体となってシステムを構成している点です。
諸外国では、年齢差別禁止の観点から定年制度を問題視する傾向が強いのに対し、日本では雇用保障の一部として肯定的に捉えられてきました。
しかし、このシステムにも変化の兆しが見えています。トヨタ自動車の豊田章男社長(当時)が「終身雇用を守っていくのは難しい」と発言したことは、大きな話題となりました。
背景には、グローバル競争の激化、技術革新のスピード化、働き方の多様化といった要因があります。従来の日本型雇用システムでは対応しきれない変化が起きているのです。
最近注目されているのが「ジョブ型雇用」への移行です。ジョブ型雇用では、職務内容を明確に定義し、その職務に対して適切な人材を配置します。年齢や勤続年数よりも、職務遂行能力が重視されるのです。
このような雇用システムでは、一律の定年制度よりも、個人の能力や成果に基づいた柔軟な雇用継続の仕組みが求められます。
定年制度も、従来の年齢による一律退職から、より個別的で柔軟な制度へと変化していく可能性があります。
このような変化の中で、私たち実務家はどのように対応すべきでしょうか?
重要なのは、変化を先読みしながらも、現在の法制度と実態を正確に把握することです。
日本型雇用システムの変化は段階的に進むと予想されます。
急激な変化よりも、従来システムの良い部分を残しながら、新しい要素を取り入れていく「ハイブリッド型」の発展が現実的でしょう。
多国籍企業や外資系企業では、既に国際的な人事制度の導入が進んでいます。日本国内でも、グローバルスタンダードに合わせた制度設計が求められるケースが増えています。
一方で、日本の雇用制度には、労働者の雇用安定や企業への帰属意識の向上など、優れた面もあります。グローバル化に対応しつつ、日本の良さを活かした制度づくりが重要になります。
次回は、高年齢労働者の安全と健康確保について解説します。
定年延長や継続雇用が進む中で、高年齢労働者の労働災害が増加傾向にあります。
「エイジフレンドリーガイドライン」の内容や、2026年4月から努力義務化される高年齢労働者対策について、実務に直結する情報をお届けしますので、お楽しみに!