


【第1回】なぜ今「退職」の法的理解が重要なのか?~労働契約終了の全体像~ <連載> 退職と職場環境づくり(全6回)

【第8回・最終回】定年制度の未来を展望する:これからの方向性と課題 <連載> 定年制度(全8回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
連載第3回目の今回は、「辞職」か「合意退職」かの区別について、実際の裁判所がどのように判断しているのかを見ていきます。
形式的な名称ではなく、労働者の意思表示の客観的な内容と、それを取り巻く経緯によって実質的に判断されるというのがポイントです。
実務の現場では、こんな場面に遭遇することがあるのではないでしょうか。
上司とトラブルになった従業員が、カッとなって「もう辞めます!」と言ってしまった。
その後、冷静になって「あれは本気じゃなかった」と撤回を申し入れてきた。さて、会社としてはこれを「辞職」として処理してよいのでしょうか?
この問題について重要な判断を示したのが、大通事件(大阪地判 平成10年7月17日)です。
この事案では、トラック運転手である労働者が、配車係とのトラブルから「もう辞めます」等の発言をし、その後撤回を申し入れましたが、会社側がこれを辞職として処理したというものです。
裁判所は、労働者による一方的退職の意思表示(辞職)は、使用者の承諾なくして雇用契約を終了させる強力な効果を持つ反面、労働者から生活の基盤を奪う重大な結果をもたらすものであると指摘しました。
その上で裁判所は、非常に重要な解釈指針を示しました。
「労働者による退職又は辞職の表明は、使用者の態度如何にかかわらず確定的に雇用契約を終了させる旨の意思が客観的に明らかな場合に限り、辞職の意思表示と解すべきであって、そうでない場合には、雇用契約の合意解約の申込みと解すべきである。」
つまり、「どちらとも取れる場合」あるいは「確定的意思が不明確な場合」は、労働者に撤回の余地が残されている「合意退職の申込み」として扱うという「推定」の論理を導入したのです。
これは労働者保護の観点からの判断といえます。
この判決が企業に突きつける教訓は明確です。
企業側が「辞職」として処理し、撤回を拒否するためには、労働者の退職意思が強固かつ確定的であったことを立証する必要があります。
感情的な発言や、一時的な興奮状態での退職表明を安易に「辞職」として処理してしまうと、後に「解雇」として争われるリスクがあるのです。「もう辞めます」という言葉を聞いたからといって、すぐに退職手続きを進めてしまうのは危険です。
では、どうすればよいのでしょうか。
まず、感情的な退職表明があった場合は、すぐに処理せず、少し時間をおいて本人の真意を確認することが重要です。「先ほどのお話は本気ですか?よく考えてから改めてお聞かせください」といった対応が望ましいでしょう。
また、退職の意思表示は必ず書面で確認することが大切です。
口頭での「辞めます」だけで手続きを進めると、後から「言った言わない」のトラブルになりかねません。書面には、退職日、退職理由、そして本人の署名を明確に記載してもらいましょう。
次回は、合意退職の申込みにおける「撤回権」の消滅時期について、白頭学院事件と大隈鐵工所事件という二つの重要判例を取り上げます。
「いつまで撤回できるのか」という実務上極めて重要な問題を解説しますので、お楽しみに!