


【第2回】「辞職」と「合意退職」の決定的な違い ~知らないと大変なことに!~ <連載> 退職と職場環境づくり(全6回)

【第1回】なぜ今「退職」の法的理解が重要なのか?~労働契約終了の全体像~ <連載> 退職と職場環境づくり(全6回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
連載第4回目の今回は、合意退職の申込みにおける「撤回権」がいつ消滅するのかという、実務上極めて重要な問題を取り上げます。
合意退職が「契約の申込み」である以上、承諾がなされるまでは撤回が可能であるというのが民法の原則です。
では、具体的に「いつ」まで撤回が可能なのでしょうか。
まず、白頭学院事件(大阪地判 平成9年8月29日)を見てみましょう。
この事案では、教員Xが校長に退職願を提出しましたが、任命権者である理事長が承諾の決済を行う前に、Xが退職願を撤回する旨の意思表示をしました。学校側は既に校長が受け取っているとして撤回を認めませんでした。
裁判所は、合意解約の申込み(退職願)は、これに対する使用者の承諾の意思表示が労働者に到達し、雇用契約終了の効果が発生するまでは、原則として撤回することができると判断しました。
そして「使用者に不測の損害を与えるなど信義に反すると認められるような特段の事情がない限り、労働者においてこれを撤回することができる」としたのです。
本件では、申込みから約2時間後に撤回しており、学校側に不測の損害を与える特段の事情はないとして、撤回を有効と認めました。
次に、大隈鐵工所事件(最三小判 昭和62年9月18日)を見てみましょう。
この事案では、労働者が人事部長に退職願を提出し、人事部長がこれを受理しました。翌日、本人が翻意し退職願の撤回を申し出ましたが、会社は拒否しました。
最高裁は、人事部長に退職承認の決定権があるか否かを争点としました。
そして「人事部長に退職承認の決定権があるならば、人事部長が退職願を受理したことをもって雇用契約の合意解約の申込みに対する即時承諾の意思表示がなされ、雇用契約の合意解約が成立するので、退職願による合意解約の申込みは撤回できない」と判断しました。
この二つの判例から、撤回の可否を分ける分水嶺が明らかになります。それは「決定権者による承諾の意思表示の到達」にあるということです。
単に直属の上司が「預かった」という段階では撤回可能です。
人事権を持つ者(社長や人事部長など、社内規定による)が承認し、それが本人に通知された時点で初めて撤回権が消滅するのです。
なお、試用期間中の労働契約終了についても、辞職・合意退職・解雇の区別が問題となります。
三菱樹脂事件(最大判 昭和48年12月12日)は、試用期間を「解約権留保付労働契約」と定義し、本採用拒否(留保解約権の行使)は通常の解雇よりも広い範囲で認められるとしました。
試用期間中であっても、労働者側からの辞職は民法627条に基づき自由に行えます。
企業側が本採用拒否(解雇)を行う場合、それが客観的に合理的な理由を欠く場合は無効となりますが、実務上は解雇リスクを避けるため、試用期間満了時の「合意退職」や「辞職勧奨」が行われることが多いです。ただし、強要された辞職は無効となるリスクがあることに注意が必要です。
次回は、これらの判例法理を踏まえた実務運用上の具体的な留意点について解説します。
書面管理のポイントや退職勧奨の適法性と限界など、人事担当者必見の内容をお届けしますので、お楽しみに!