いわゆる正社員の約16%が年次有給休暇を1日も取得していないそうです。いない点に着目し、まずはこのような実態を解消することを第一義として「5日」を消化することを目的とする現行案に落ち着きました。
言い換えるなら5日の強制付与が実施されたとしても、政府目標の7割には及ばず、なお会社に努力が求められる点に留意が必要です。
ちなみに当時の労働政策審議会労働条件分科会の資料によれば、年次有給休暇をほとんど取得していない労働者については長時間労働者比率が高い実態(週60時間以上働く正社員の約27%が年休取得ゼロ)があることを考えると、会社の安全配慮義務からも最低5日の強制付与は必須の制度と考えます(本規定については中小企業の適用猶予が定められておらず、2019年4月に一斉施行される点に注意)。
制度の対象者は、年休付与日数が10日以上の社員です。10日以上の年休の範囲に労基法39条3項(比例付与)が含まれているため、入社当初の付与日数が10日に満たないパートタイマーであっても、勤続により付与日数が10日以上となったときから対象者となる点に注意が必要です。
次に、巷では新制度は、会社が年休を強制的に取らせるものと思われていますが、必ずしも業務命令により社員に対して年休の取得を強制する規定とはなっていません。条文では、「(使用者は、)その時季を定めることにより与えなければならない。」とあり、労働者の時季指定権に対する使用者の「時季指定義務(・・)」として規定されてはいません。そして、その義務違反(つまり、5日間の年休を与えなかった)ことに対する罰則(30万円以下の罰金)が設けられる一方で、次のような規定が省令で定められる予定です。
2.使用者は、当該意見を尊重するよう努めなければならない。
つまり、会社は、社員に対し、その時季指定権の行使を強制することはできず、あくまでも本人の意思を尊重しなければならないということであり、その点で使い勝手のよくない制度かもしれません。そこで、労使で話し合って、年次有給休暇の日を決める「計画的付与制度」(これは、現在でも労使協定を締結すればどの会社でも採用できます)を取り入れることが考えられます。
これによると、年休が取りにくい体質の会社であれば、会社一斉に休暇の日を決めるということも可能ですし、一斉休暇が難しい、あるいは社員のニーズが様々です、という場合は、年度頭に社員全員の休暇日の希望を聴いて、全員の年休取得計画表を作成する方式(個別付与方式)を検討するとよいかもしれません。
この計画的付与が行われた日数は、会社が付与しなければならない日数から差し引くことができます。