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【第7回】ジョブ型雇用時代の定年制:新しい働き方への対応 <連載> 定年制度(全8回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!

定年制度シリーズも第7回となりました。今回は、近年大きな話題となっている「ジョブ型雇用」と定年制度の関係について解説します

従来の日本型雇用システムから職務中心の雇用システムへの移行が進む中で、定年制度はどのような変化を遂げようとしているのでしょうか? 

新しい時代の働き方を見据えながら、実務への影響を考えてみましょう。

ジョブ型雇用とは何か?

まず「ジョブ型雇用」について整理しておきましょう。ジョブ型雇用とは、職務内容(ジョブ)を明確に定義しますと、その職務に必要なスキルや経験を持つ人材を採用・配置する雇用システムです

欧米では一般的な仕組みで、「Job Description(職務記述書)」が雇用契約の基礎となります。

これに対して、日本の従来型である「メンバーシップ型雇用」は、まず人を採用してから職務を割り当てる方式です

新卒一括採用、総合職採用、定期的な人事異動などが特徴的で、長期雇用を前提として社内で人材育成を行います。

トヨタ社長の「限界発言」が示すもの

ジョブ型雇用への注目が高まったきっかけの一つが、トヨタ自動車の豊田章男社長(当時)の発言でした。

「終身雇用を守っていくのは難しい」という「限界発言」は、日本型雇用システムの変革を象徴する出来事として大きな話題となりました

この発言の背景には、グローバル競争の激化、技術革新のスピード化、働き方の多様化といった要因があります。

従来の「入社してから定年まで同じ会社」というモデルでは対応しきれない変化が起きているのです

ジョブ型雇用で定年制度はどう変わる?

ジョブ型雇用の普及は、定年制度にどのような影響を与えるのでしょうか?いくつかの重要な変化が予想されます。

 

1. 年齢よりも職務遂行能力重視

ジョブ型雇用では、年齢や勤続年数よりも、その職務を遂行する能力があるかどうかが重要になります。60歳、65歳という年齢で一律に雇用を終了するのではなく、職務を適切に遂行できる限り雇用を継続するという考え方に変わります。

 

2. 職務別の異なる定年年齢

職務の性質によって、求められる能力や体力が異なります。デスクワーク中心の職務と現場作業中心の職務では、加齢による影響も異なるでしょう。ジョブ型雇用では、職務別に異なる定年年齢を設定することが合理的になります。

 

3. 個別評価に基づく雇用継続判断

従来の一律的な定年制度に代わって、個別の職務遂行能力評価に基づく雇用継続判断が重要になります。定期的なパフォーマンス評価、スキルアセスメント、健康診断結果などを総合的に判断して、雇用継続の可否を決定するシステムです。

実際に始まっている企業の取組み

すでに一部の企業では、ジョブ型雇用を意識した定年制度の見直しが始まっています。

 

定年制の廃止

最も大胆な選択肢が定年制の完全廃止です。年齢による一律の雇用終了を廃止し、個人の能力と意欲に基づいて雇用を継続する仕組みです。ただし、これには綿密な人事制度の再設計が必要となります。

 

選択定年制の導入

60歳、65歳、70歳など複数の定年年齢から労働者が選択できる制度です。早期に別のキャリアを歩みたい人は60歳で、長く働き続けたい人は70歳まで選択できるという柔軟性があります。

 

職務別定年制の導入

職務の性質に応じて異なる定年年齢を設定する制度です。研究開発職は70歳、現場作業職は65歳といった具合に、職務特性を考慮した設定が可能になります。

 

ジョブ型雇用における労働条件の考え方

ジョブ型雇用では、労働条件の考え方も大きく変わります。

 

職務給制度への移行

年功的な賃金制度から、職務の価値や成果に基づく職務給制度への移行が進みます。同じ職務であれば、年齢に関係なく同じ水準の賃金が支払われることになります。

 

専門性の重視

特定分野の専門性を持つ労働者の価値が高まります。高齢であっても高い専門性を有する労働者は、むしろ重宝される可能性があります。

 

流動性の高い労働市場

ジョブ型雇用では、労働市場の流動性が高まります。一つの企業で定年まで働くのではなく、キャリアアップのために転職することが一般的になります。

 

実務上の課題と対応策

ジョブ型雇用への移行には、多くの実務上の課題があります。

 

職務記述書の作成

すべての職務について詳細な職務記述書を作成する必要があります。職務内容、必要スキル、責任範囲、評価基準などを明確に定義しなければなりません。

 

評価制度の再構築

年功的な評価制度から、職務遂行能力に基づく評価制度への転換が必要です。客観的で公正な評価基準の設定と、評価者のトレーニングが重要になります。

 

法的整理の必要性

現行の労働法制は、メンバーシップ型雇用を前提として構築されています。ジョブ型雇用の普及に伴い、法制度の見直しも必要になるでしょう。

 

労働者の意識改革

労働者側も、「会社に面倒を見てもらう」という意識から「自分のスキルと専門性で勝負する」という意識への転換が求められます。継続的な学習とスキルアップが不可欠になります。

 

中間型モデルの可能性

現実的には、純粋なジョブ型雇用への完全移行よりも、日本の実情に合わせた「中間型モデル」の発展が予想されます。

 

ハイブリッド型雇用システム

メンバーシップ型の良い部分(雇用安定、チームワーク、長期的視点)と、ジョブ型の良い部分(専門性重視、公正な評価、柔軟性)を組み合わせたハイブリッド型のシステムです。

 

段階的な導入

まずは管理職や専門職からジョブ型雇用を導入し、徐々に対象範囲を拡大していく段階的なアプローチが現実的でしょう。

 

定年制度の柔軟化

完全廃止ではなく、選択制や職務別制度など、従来よりも柔軟で多様な定年制度への移行が進むと予想されます。

 

人的資本経営との関連

ジョブ型雇用への移行は、近年注目されている「人的資本経営」とも密接な関係があります。従業員のスキル、知識、経験を企業の重要な資産として捉え、その価値を最大化する経営手法です。
高年齢労働者が持つ豊富な経験と専門知識は、まさに重要な人的資本です。年齢で一律に排除するのではなく、その価値を適切に評価し、活用することが企業の競争力向上に繋がります。

次回予告(最終回)

いよいよ次回は最終回です。これまで7回にわたって解説してきた内容を踏まえて、日本の定年制度の未来を展望します

少子高齢化、技術革新、働き方の多様化といった大きな変化の中で、定年制度はどこに向かうのか?

私たち実務家が準備すべきことは何か? 総まとめをお届けしますので、ぜひお楽しみに!

 

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