


第5回:70歳までの就業確保 ~努力義務の現状と、完全義務化への道筋~ <連載>定年後再雇用制度の歴史と展望(全5回・最終回)

第4回:65歳雇用の現場で起きていること~7割が継続雇用を選ぶ理由と、第二種認定計画という縁の下の力持ち~ <連載>定年後再雇用制度の歴史と展望(全5回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
前回は、1987年・昭和62年改正で労働基準法が「守り、支える」法律へと一歩を踏み出したところまでをお話ししました。
第2回は、その後のおよそ15年間です。この時期の改正史は、柔軟化と規制強化が交互に振れる「振り子」として理解すると、驚くほどすっきり頭に入ります。
バブル経済が崩壊し、これに続く低成長期に入ると、企業はいっそうの効率性と柔軟性を求めるようになりました。
1993年、平成5年の改正では、週40時間労働制が本格的に施行され、一部の業種には猶予が設けられました。
同時に、1年を通じた業務の繁閑に対応するための1年単位の変形労働時間制が導入されています。
あわせて、時間外労働や休日労働の割増賃金率が政令で定める事項とされ、休日労働の割増賃金率が35%へと引き上げられました。
このとき時間外労働の割増賃金率は25%のまま据え置かれています。休日労働をより重く評価することで、休日の確保を促そうという発想が読み取れます。
1998年、平成10年の改正は2つの意味で重要です。ひとつは、長時間労働の抑制を図るため、労働大臣が36協定で定める労働時間の延長の限度などに関する基準、いわゆる限度基準告示を定める仕組みが設けられたことです。
これは、のちの罰則付き上限規制への遠い布石になります。
もうひとつが、企画業務型裁量労働制の新設です。それまでの専門業務型裁量労働制が、システムエンジニアやデザイナー、コピーライター、研究開発者など特定の19業務に限られていたのに対し、企画業務型は事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務を対象とし、ホワイトカラーの中核的な経営業務にまで裁量労働の門戸を広げました。
注目したいのは、その導入手続です。従来の労使協定ではなく、労使委員会という新しい労使の組織による決議が要件とされました。
決議は、のちの法改正で5分の4以上の多数によることとされます。集団的な労使関係を通じて制度の適正な運用を担保するという、新しいメカニズムがここで導入されたのです。
| 比較の観点 | 専門業務型裁量労働制 | 企画業務型裁量労働制 |
|---|---|---|
| 創設の時期 | 1987年・昭和62年改正 | 1998年・平成10年改正 |
| 主な対象業務 | 研究開発、システム設計、デザイン、 コピーライターなど専門性の高い業務 |
事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務 |
| 導入の手続 | 労使協定 | 労使委員会の決議(のちに5分の4以上の多数) |
| 制度の性格 | 業務の専門性に着目した裁量の付与 | ホワイトカラーの中核的な経営業務への裁量の拡張 |
柔軟な労働時間制度の拡大は、経済活動の効率化に役立った一方で、裁量労働を隠れみのにした長時間労働や、不払い残業といった副作用も社会に生み出しました。ここから2000年代の改正は、是正へと振り子が振れていきます。
2003年、平成15年の改正では、専門業務型裁量労働制の労使協定において、対象となる労働者の健康・福祉確保措置と苦情処理措置を定めることが義務づけられました。企画業務型では導入当初から義務づけられていたものを、専門業務型にも広げ、裁量性と健康確保のバランスを回復しようとした試みです。
同時に、企画業務型裁量労働制の対象事業場を本社などに限定しないこととし、労使委員会の決議要件を5分の4以上の多数へと緩和するなど、導入・運用の要件の緩和もあわせて行われました。
さらに雇用形態の多様化への対応として、有期労働契約の期間の上限が原則1年から3年へと延長され、高度の専門的知識を持つ者や満60歳以上の者については5年とされています。規制強化と緩和が、同じ改正のなかに同居している点が、この時期の特徴です。
続く2008年、平成20年の改正では、長時間労働の強力な抑制を目的として、1か月に60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が、25%から50%へと大幅に引き上げられました。
なお、中小企業に対しては、この50%への引き上げが当分の間猶予される措置がとられています。
あわせて、引き上げ分の割増賃金の支払いに代えて代替休暇を付与する制度が設けられました。労働者に、金銭による補償か、休息による回復かという選択肢を示すことで、ワーク・ライフ・バランスの確保を図ろうとしたものです。
「お金で報いる」だけでなく「休みで報いる」という発想は、第5回でお話しする2026年改正の核心にもつながっていきます。
1993年から2008年までの改正史は、柔軟化と規制強化が交互に振れる振り子として整理できます。
柔軟化に振れたのが、1年単位の変形労働時間制や企画業務型裁量労働制の創設。規制強化に振れたのが、健康・福祉確保措置の義務化や月60時間超の割増賃金率の引き上げです。
柔軟化が副作用を生み、その是正のために規制が強化される。このサイクルこそ、労働基準法の改正史を貫く力学です。
次回・第3回は、いよいよ歴史的転換点です。
2018年・平成30年の働き方改革関連法による罰則付きの時間外労働上限規制、高度プロフェッショナル制度の創設、そして2024年・令和6年の裁量労働制の適正化までを一気にたどります。



