


第2回:法律より先に裁判所が動いた — パワハラ法制化までの長い道のり <連載>ハラスメント法制の歴史と未来 — 2026年10月大改正を読み解く(全6回)

第1回:「お茶くみ当番表」の時代に生まれた第一歩 — セクハラ規制、誕生の物語 <連載>ハラスメント法制の歴史と未来 — 2026年10月大改正を読み解く(全6回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
連載第4回は、2026年10月1日施行の改正男女雇用機会均等法によって義務化される、求職者等(就活生・インターンシップ生等)に対するセクシュアルハラスメント防止措置を取り上げます。カスハラ対策と並ぶ今回の改正のもう1つの柱ですが、こちらは採用実務に直結するだけに、人事部門への影響はむしろ大きいかもしれません。
これまでのハラスメント防止義務は、雇用契約を前提とした「労働者」に限定されていました。つまり、採用活動中の学生やインターンシップ生等は、法的な保護から取り残されていたのです。雇用関係がまだ存在しない、ただそれだけの理由によって。
今回の改正は、この「雇用関係の不在」という法的な空隙を解消する、極めて重要な意義を持ちます。保護の対象を雇用契約の内側から、その入口に立つ人たちへと広げる。第3回で見たカスハラ対策と同じく、「社内から社外へ」という大きな流れの中に位置づけられる改正です。
なぜ就活の場面でハラスメントが起きやすいのか。答えは、採用担当者やOB・OG、リクルーターと学生との間にある圧倒的な権力勾配(パワー・インバランス)です。学生にとって相手は、自分の内定を左右し得る存在。不快な言動をされても、選考への影響を恐れて拒否も抗議もできない。この構造こそが、被害を潜在化させてきました。
採用プロセスやOB訪問だけでなく、教育実習や看護実習といった実習の場においても、同様の構造的問題が指摘されています。
実態として恒常化しているとされるのは、次のような行為です。個人のSNSアカウントを通じた連絡や、2人きりでの食事、個別の呼び出しといった私的な接触の強要。「彼氏・彼女はいるのか」「結婚・出産の予定は」といったプライベートへの過度な質問や、容姿へのコメント。そして最も悪質なものとして、性的な関係を求めたり、選考の有利・不利をほのめかしたりする、選考を人質にした脅迫です。
これらは求職活動や職業選択の自由を著しく阻害し、応募者に重大な精神的苦痛を与えるものです。就職活動という人生の重要な場面が、こうした言動によって歪められることがあってはなりません。
今回の義務化により、企業は「求職者等」を保護対象に含めた防止方針の策定、OB訪問やリクルーター面談における具体的ルールの明文化、学生や学校関係者が直接利用できる相談窓口の整備、そしてハラスメント発生時の迅速な事実確認と加害者への厳正な対処を求められることになりました。
具体的ルールの例としては、個人SNSでの連絡禁止や面談場所の制限が挙げられています。開かれた場所での面談を原則とし、夜間や密室での接触を認めない。連絡は会社の公式な手段に限る。こうした明文のルールがあるだけで、現場の行動は大きく変わります。また、相談窓口は社内の従業員向け窓口とは別の視点が必要で、学生本人や大学のキャリアセンター等の学校関係者が直接アクセスできる形で整備しなければならない点にご注意ください。
さらに、厚生労働省の指針案では、セクハラ対策のみならず、就活におけるパワーハラスメント(就活パワハラ)に類する行為についても、セクハラ防止措置に準じた望ましい取組を並行して実施することを強く求めています。義務の中心はセクハラ防止ですが、実務対応としては就活ハラスメント全般をカバーする方針と体制を作ってしまうのが賢明でしょう。
採用難の時代、就活生への向き合い方は企業の評判に直結します。ハラスメント防止体制の整備は、リスク対応であると同時に、採用ブランドへの投資でもあるのです。
求職者等セクハラ防止措置の要点は4つあります。求職者等を含めた防止方針の策定、OB訪問・リクルーター面談のルール明文化(個人SNSでの連絡禁止、面談場所の制限等)、学生や学校関係者が直接利用できる相談窓口の整備、そして発生時の迅速な事実確認と厳正な対処です。就活パワハラへの準じた取組も忘れずに。
ここまで4回で、日本のハラスメント法制の過去と現在を見てきました。次回は視点をぐっと広げ、世界に目を向けます。ILO第190号条約という国際基準に照らしたとき、日本の法制はどう見えるのか。イギリス、アメリカ、フランス、韓国の最新動向とあわせて比較します。
第5回「世界はハラスメントをどう規制しているか — ILO第190号条約と各国比較」。「狂暴なオウム」の比喩で知られる米国判例から、刑事罰で臨むフランス・韓国まで、規制アプローチの違いを一望します。



