


第1回:労働基準法の原点 ―「守る」法から「守り、支える」法へ <連載>労働基準法・改正の40年史と2026年大改正の行方(全6回)

第5回:70歳までの就業確保 ~努力義務の現状と、完全義務化への道筋~ <連載>定年後再雇用制度の歴史と展望(全5回・最終回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
第1回と第2回で、1987年から2008年までの改正史をたどってきました。
第3回は、近年でもっとも大きなインパクトを与えた2018年・平成30年の働き方改革関連法と、2024年・令和6年の裁量労働制改正を取り上げます。
ここまでが「過去」、次回からが「これから」の話です。
1987年・昭和62年改正に匹敵する、あるいはそれ以上の歴史的な意義を持つのが、2018年、平成30年に成立し、2019年から順次施行された働き方改革関連法による労働基準法改正です。
最大の転換は、時間外労働の罰則付き上限規制の導入でした。
従来の労働基準法第36条、いわゆる36協定には、特別条項を付すことで、事実上青天井で時間外労働をさせることができてしまうという構造的な欠陥が存在していました。この欠陥に、はじめて法律の網がかけられたのです。
2018年改正により、月45時間・年360時間という原則が法律上はっきりと明記されました。
そのうえで、臨時的な特別の事情がある場合でも、単月100時間未満(休日労働を含む)、2か月から6か月の平均で80時間以内(休日労働を含む)、年720時間という絶対的な上限が設定されました。
過労死という深刻な社会的要請に対し、国家が強く介入したものであり、行政指導の基準から法律上の強行規定への昇格と言えます。
一方で、多様な働き方の推進という「支える」側の改正もありました。高度プロフェッショナル制度、いわゆる高プロの創設です。
これは、年収1075万円以上で高度の専門的知識を要する業務に従事する労働者に対し、本人の同意を前提として、労働時間、休日、深夜の割増賃金などの規定を完全に適用除外とするものです。
さらに、フレックスタイム制の清算期間の上限が、従来の1か月から3か月へと延長され、育児や介護など、月をまたいだ長期的な視点での労働時間の調整が可能となりました。
2024年、令和6年4月には、裁量労働制に関する制度改正が施行されました。柱は、労働者の真の同意の確保です。
専門業務型においても、制度の適用にあたって本人同意を要件とし、同意の撤回の手続を労使協定で定める事項として整備しました。
あわせて、対象業務に、銀行や証券会社などにおけるM&Aアドバイザリー業務などが追加される一方で、健康・福祉確保措置の選択肢として、勤務間インターバルの確保や深夜業の回数制限が追加されています。
さらに、労使委員会の機能強化として、賃金・評価制度の運用状況の開示や、6か月以内ごとに1回という開催の頻度の規定などが図られました。「対象は広げるが、健康確保と本人の真意の尊重はより厳格に」という、いまの労働政策の基本姿勢がよく表れた改正です。
ここで、第1回から本回までにたどってきた約40年の改正史を、1枚の表にまとめておきましょう。第4回以降の「これから」の議論を読むうえでの土台になります。
| 改正年 | 働き方の多様化・労働時間法制に関する主な改正内容 | 政策的な背景と目的 |
|---|---|---|
| 1987年 昭和62 |
40時間労働制の段階的な導入、フレックスタイム制の創設、みなし労働時間制の導入 | サービス経済化への対応、画一的規制からの脱却 |
| 1993年 平成5 |
1年単位の変形労働時間制の導入、40時間制の本格施行、休日割増賃金率の引き上げ(35%) | 業務の繁閑に応じた労働時間配分の柔軟化 |
| 1998年 平成10 |
企画業務型裁量労働制の創設、労使委員会の仕組みの導入 | ホワイトカラー中核業務への裁量の付与 |
| 2003年 平成15 |
専門業務型への健康・福祉確保措置の義務化、企画業務型の要件緩和、有期契約期間の延長 | 裁量労働の乱用防止と健康確保、有期雇用の活用促進 |
| 2008年 平成20 |
月60時間超の時間外労働の割増賃金率を50%へ引き上げ、代替休暇制度の創設 | 長時間労働の抑制と、金銭に代わる休息の選択肢 |
| 2018年 平成30 |
罰則付き時間外労働上限規制、高度プロフェッショナル制度の創設、フレックス清算期間の延長 | 過労死の撲滅と、成果で評価される働き方の推進 |
| 2024年 令和6 |
裁量労働制の本人同意の必須化と同意撤回権の整備、M&A業務の追加、労使委員会の機能強化 | 制度の不適正な運用の是正、本人の真意の尊重 |
この表を縦に眺めると、第2回でお話しした「振り子」がよく見えてきます。柔軟化に振れた改正と、健康確保のために規制を強化した改正とが、交互に積み重なっているのです。
そして2018年以降は、「健康確保のための絶対的な境界線」を引くという発想がいっそう強くなっています。
次回・第4回は、視点を「現在」に移します。
2025年・令和7年1月8日に公表された労働基準関係法制研究会の報告書を手がかりに、いま労働基準法が抱える3つの構造的な課題を整理します。
労働者とは誰か、事業場とは何か、そして労使コミュニケーションは機能しているのか。2026年改正を理解するための、最重要回です。



