


第4回:就活生を守る法改正 — 「雇用関係なき空白」を埋める求職者等セクハラ防止措置 <連載>ハラスメント法制の歴史と未来 — 2026年10月大改正を読み解く(全6回)

第3回:2026年10月、カスハラ対策がすべての事業主の義務になる <連載>ハラスメント法制の歴史と未来 — 2026年10月大改正を読み解く(全6回)

こんにちは、分かりやすさNo.1社労士の先生の先生、岩崎です!
連載もいよいよ最終回です。1997年のセクハラ配慮義務化から始まった約30年の歩みを振り返りながら、日本型ハラスメント法制の構造的な課題と、2026年10月改正にどう向き合うべきかという実務戦略を、まとめてお届けします。
我が国のハラスメント法制は、1997年のセクハラ配慮義務化に始まり、川崎水道局事件やトナミ運輸事件といった過酷な司法の教訓を経て、職場の安全配慮義務の具体的な内容を実質化させてきました。そして2026年10月に施行されるカスタマーハラスメントおよび求職者等に対するセクハラ防止措置の義務化は、これまでの「社内環境の維持」から「企業を取り巻く利害関係全体の安全網」へと、企業のコンプライアンスの射程を根底から押し広げる契機となります。
お茶くみ当番表の時代から、顧客や就活生までを視野に入れた安全網の時代へ。保護の輪は一貫して広がり続けてきた。これが30年の歴史から読み取れる大きな流れです。
この現代的変革のもとで、企業が講ずべき実務対応は、単なる就業規則の改訂にとどまりません。ハラスメント対策を怠ることは、行政からの指導・勧告や企業名公表のリスクに直面するだけでなく、新たに法制化された「求人不受理」という、労働市場からの即時的な強制退場措置に直面することを意味します。
採用難に苦しむ企業にとって、公共職業安定所で求人を出せなくなることの打撃は計り知れません。ハラスメント対策はもはや総務の一業務ではなく、事業継続の条件そのものになったのです。
もう1つの重大リスクは、民事責任です。川崎水道局事件等の先例が築いた安全配慮義務の解釈がさらに厳格化するなかで、実効性のない「名ばかりの相談窓口」や、現場への「過度な忍耐の要求」は、巨額の民事賠償責任を直接企業に招くことになります。
第2回で見たとおり、「認知しながら放置した者」の責任を問うのが判例法理の本流です。窓口を設置したという形式ではなく、実際に機能しているかという実質が問われる。ここを外すと、行政対応も民事対応もすべて崩れます。
国際的な比較に目を向ければ、我が国の間接的な「措置義務アプローチ」は、行為そのものを法的に禁止し雇用主に厳格な代位責任を課すイギリスや、直接の刑事罰を科すフランス、韓国といった先鋭的な規制アプローチに比べれば、依然として事業主に自主的な裁量を認めたマイルドな枠組みと評価できます。
しかし、そのマイルドさゆえの影もあります。何が社会通念上の限界であるかの実質的な判定や初期対応のすべての負担が、個別企業の「私的準司法機関」としての判断機能に転嫁されている実態は否めません。カスハラか正当なクレームか、指導かパワハラか。その難しい線引きを、個々の現場が担わされているのです。だからこそ、判断基準の整備と運用体制の設計を支援できる専門家、すなわち私たち社労士の出番が広がっているとも言えます。
今後は、国や自治体によるガイドラインのさらなる明確化が不可欠です。東京都などの地方条例の運用状況を踏まえた好事例の蓄積も進んでいくでしょう。また、小規模事業者でも実行可能なデジタル技術、たとえばAIによる録音・テキスト化や、外部の専門窓口への委託等の普及が、措置義務の実効性を底支えしていくはずです。
「うちは小さいから無理」ではなく、「小さいからこそ外部資源とデジタルで賢く整える」。この発想の転換を顧問先に促すのも、これからの社労士の重要な役割です。
最後に、最も大切な視点をお伝えします。企業は今回の法制化を、単なる「規制対応(法令遵守のための受動的対応)」として捉えるべきではありません。多様な人材がその尊厳を傷つけられることなく持続的に活躍するための、中長期的な「人的資本投資」および「ガバナンス改革」として戦略的に位置付け、実装していくことが求められます。
従業員を理不尽から守る会社には、人が集まり、定着し、力を発揮します。ハラスメント対策の水準は、これからの時代、企業の競争力そのものです。
2026年10月を、守りの締切ではなく、攻めの起点に。本連載が、先生方の顧問先支援の一助となれば幸いです。全6回、お付き合いいただきありがとうございました!



