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第2回:安全配慮義務はどこから来たのか — 判例法理50年の展開 <連載>労務管理と健康管理の実務 — 2026年から2028年の法改正を読み解く(全6回)

こんにちは、分かりやすさNo.1 社労士の先生の先生、岩﨑です!

労務管理における健康管理の法的根拠をなす中核概念が、安全配慮義務です。研修や規程整備の場面で日常的に使う言葉ですが、その由来まで説明できると、顧問先や社内の説得力が一段変わります。第2回は、この義務がどのように形づくられてきたのかを、判例に沿って整理します。

明文なき義務の誕生 — 陸上自衛隊八戸車両整備工場事件

安全配慮義務は、最初から明文の規定として存在していたわけではありません。出発点は、陸上自衛隊八戸車両整備工場事件(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決)です。自衛隊員が車両整備中に同僚の運転するトラックにひかれて死亡した事案において、最高裁は、国は信義則上の付随義務として、公務員に対し安全配慮義務を負うと初めて判示しました。これにより、安全配慮義務の概念が判例上確立します。

この判決には実務的な意味もありました。不法行為の消滅時効(当時3年)を経過した事案であっても、債務不履行責任(当時10年)に基づく損害賠償請求が可能となったのです。義務の性質を契約上のものと構成したことの実益が、ここに表れています。

民間企業への一般化 — 川義事件

次の画期が川義事件(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決)です。呉服等の卸売会社において、宿直勤務中の新入社員が盗賊に殺害された事案で、最高裁は、使用者は、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し、又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負うと判示しました。民間企業における労働契約に付随する一般的義務として、安全配慮義務が定式化された判決です。この事案では、防犯設備の不備や人的配置の欠如が過失と認定されました。

心の健康へ — 電通事件

そして電通事件(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決)です。新入社員が恒常的な長時間労働によりうつ病を発症し自殺に至った過労自殺事案において、最高裁は、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと判示しました。物理的事故の防止だけでなく、過重労働とメンタルヘルス不調に対しても安全配慮義務が及ぶことが明確化された判決です。

[表]安全配慮義務をめぐる法理の展開

事件・立法 時期 意義
陸上自衛隊八戸車両整備工場事件 最高裁昭和50年2月25日判決 信義則上の付随義務として安全配慮義務の概念を確立。債務不履行構成による請求の道を開いた
川義事件 最高裁昭和59年4月10日判決 民間企業の労働契約に付随する一般的義務として定式化。設備の不備と人的配置の欠如を過失と認定
電通事件 最高裁平成12年3月24日判決 過重労働とメンタルヘルス不調にも義務が及ぶことを明示
労働契約法第5条 平成20年施行 判例法理をそのまま明文化
令和7年以降の法改正 2026年から2028年 抽象的な配慮義務を、両立支援・高年齢者対策・ストレスチェックという具体的制度へ落とし込む段階

労働契約法第5条は、使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとすると規定しています。判例が先行し、立法が後追いした構造です。そして今、その「必要な配慮」の中身を具体化する段階に入っている。第1回で見たロードマップは、この流れの延長線上にあります。

第2回のポイント

安全配慮義務は判例法理として形成され、後に労働契約法第5条として明文化されました。八戸車両整備工場事件で概念が確立し、川義事件で民間企業に一般化され、電通事件で心の健康にまで対象が広がりました。現在は、この抽象的な配慮義務を具体的な制度運用へ翻訳する局面にあります。

次回は、その配慮のもっとも基本的な入口である労働安全衛生法上の健康診断を、条文に沿って整理します。実施義務だけでなく、事後措置と記録まで含めた一連の仕組みとして押さえておきましょう。どうぞお楽しみに!

次回予告

第3回「健康診断は「実施して終わり」ではない — 労働安全衛生法第66条の全体像」。事業者の実施義務と労働者の受診義務、医師の意見聴取と事後措置、個人票の5年保存、省略基準の適正な運用、そして2027年4月施行の検査項目の見直しまでを通して確認します。

 

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